骨折の治療が終わり、「もう大丈夫ですよ」と言われて退院する。ほっとする瞬間です。
ただ、骨折は治っても、骨そのものは折れたときのままです。
折れた骨をつなぐ治療と、骨そのものを強くする治療は別のものです。前者が終わったところで、後者が始まらないまま帰ってしまうことが、とてもよく起きています。
この抜け落ちやすい引き継ぎを埋めるために作られたのが、骨折リエゾンサービスという仕組みです。耳慣れない言葉かもしれませんが、日本では保険の制度にも組み込まれ、全国で広がってきています。
骨折は治ったのに、骨の治療が始まらないまま帰ってしまう——その「抜け落ちやすい引き継ぎ」を埋める仕組みです。誰が関わるのか、どこまで効果が確かめられているのかを解説します。
骨折の治療が終わり、「もう大丈夫ですよ」と言われて退院する。ほっとする瞬間です。
ただ、骨折は治っても、骨そのものは折れたときのままです。
折れた骨をつなぐ治療と、骨そのものを強くする治療は別のものです。前者が終わったところで、後者が始まらないまま帰ってしまうことが、とてもよく起きています。
この抜け落ちやすい引き継ぎを埋めるために作られたのが、骨折リエゾンサービスという仕組みです。耳慣れない言葉かもしれませんが、日本では保険の制度にも組み込まれ、全国で広がってきています。
目次: リエゾンとは | 抜け落ちる引き継ぎ | チーム | 2つの呼び方 | 効果 | 調べ方 | まとめ | よくある質問
リエゾン(liaison)はフランス語で、「つながり」「連携」「連絡係」を意味する言葉です。日本骨粗鬆症学会も、この仕組みを紹介するときに同じ説明をしています。
何と何をつなぐのか。おおまかには、こういうことです。
骨折を治す治療(手術・固定・リハビリ)
↓ ← ここが切れやすい
骨粗鬆症そのものの治療(次の骨折を防ぐ)
そして、つなぐ相手は診療科どうしだけではありません。
「リエゾン」という耳慣れない外来語が使われているのは、この仕組みが特定の治療法ではなく、人と人のあいだの受け渡しそのものを指しているからです。誰か一人の頑張りに頼らず、受け渡しの仕組みを作ってしまおう、という考え方です。
この話は、医療の側の反省から始まっています。
太ももの付け根(大腿骨近位部〈だいたいこつきんいぶ〉)を骨折された方について、その後どれだけの方が骨粗鬆症の治療を始められたかを、日本の大規模なデータで調べた研究があります。
2020年に骨折された6,705人(全国1,309施設、平均82.9歳)を追いかけた調査では、こうなっていました。
| 時期 | 骨粗鬆症の治療を受けている方の割合 |
|---|---|
| 骨折したとき | 23.0% |
| 6か月後 | 44.8% |
| 12か月後 | 47.3% |
骨折をきっかけに治療が始まった方はたしかに増えています。それでも1年たった時点で、まだ半分ほどの方が治療につながっていません。
もう少し前の時期を全国のレセプト(診療報酬明細)で見た研究では、大腿骨近位部骨折94万件あまりのうち、骨粗鬆症の薬による治療を受けていた方は2012年度の21.2%から2018年度の31.6%へ、という数字でした。少しずつ改善してきてはいるものの、長く低いところにとどまっていたことがわかります。
責める話ではありません。抜け落ちるだけの理由があります。
どこか一か所が悪いのではなく、誰の担当でもない隙間に落ちている、という性質の問題です。そこで、個人の心がけでなく仕組みで埋めようという発想になりました。
2022年から、太ももの付け根の骨折で手術を受けた方について、骨粗鬆症の評価と治療を続けていく取り組みが、健康保険の中で評価されるようになりました。手術をした病院、そのあとのリハビリ病院、退院後の外来と、段階をつないでいく形で作られています。
制度ができた前後を比べた研究では、退院時に骨粗鬆症の薬が処方される割合が、制度の開始と同時に約20ポイント上がったことが報告されています。それまでは年に1ポイント程度しか動いていなかったので、仕組みが変わると現場も変わることがよく分かります。
[!note] 対象になる骨折について この保険の仕組みは、現在のところ太ももの付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)で手術を受けた方が対象です。背骨や手首の骨折は含まれていません。 ただしこれは「保険の算定の対象かどうか」の話であって、背骨や手首を骨折された方に骨粗鬆症の治療が要らない、という意味ではまったくありません。 むしろ背骨の骨折は次の骨折の重要なサインです。制度の枠と、医学的な必要性は別のものとお考えください。
この仕組みの特徴は、医師だけで完結しないところにあります。入院中や外来で、こんな方々が関わってくれることがあります。
日本骨粗鬆症学会には「骨粗鬆症マネージャー」という認定制度があり、2026年4月時点で全国におよそ6,000人が認定されています。その内訳を見ると、この仕組みが誰に支えられているかがよくわかります。
| 職種 | 割合 |
|---|---|
| 看護師(保健師・助産師を含む) | 50.9% |
| 理学療法士 | 20.3% |
| 薬剤師 | 16.0% |
| 診療放射線技師 | 5.5% |
| 管理栄養士 | 3.0% |
| 作業療法士 | 2.2% |
| その他 | 2.1% |
半数が看護師です。ほかに、社会福祉士や歯科衛生士、臨床検査技師なども資格を取ることができます。医師は対象外です。もともとメディカルスタッフのための制度として作られているためです。
また、看護師の方を対象にした「FLSコーディネーター」という別の認定制度もあります(日本脆弱性骨折ネットワークによるもので、2025年10月末時点で473人)。実際に病院であなたの窓口になってくださる方は、こちらの資格をお持ちのこともあります。
「先生に聞くほどのことでもないかな」と思われるようなことこそ、こうした方々の出番です。薬の飲み方、食事、リハビリ、次の予約のことなど、ためらわずに声をかけてみてください。
調べていくと、よく似た言葉が2つ出てきて混乱するかもしれません。どちらも正しい言葉です。
| 骨折リエゾンサービス(FLS) | 骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS) | |
|---|---|---|
| 対象 | 骨折した方の、次の骨折を防ぐ | 骨折した方に加えて、まだ骨折していない方の予防も |
| 由来 | 1990年代の英国で始まり、世界へ広がった | 日本骨粗鬆症学会が、FLSをもとに日本向けに広げたもの |
| 使われ方 | 保険の制度や、専門家向けの標準文書で使われます | 学会の活動全体を指すときに使われます |
OLSのほうが広い言葉で、FLSはその中の「骨折したあと」の部分、という関係です。病院によってどちらの言い方をするかが違いますが、目指していることは同じですので、言葉の違いを気にされる必要はありません。
はっきり確かめられていることと、まだそこまでは言えないことがあります。
世界の74の研究をまとめた解析では、この仕組みがある施設では次のように違っていました。
いずれも20ポイント前後の差で、「検査を受け、治療を始め、続けられる」という点については効果がはっきりしています。
次の骨折が減るかどうかについては、減る方向の結果が出ています(複数の研究をまとめた解析でオッズ比0.70、95%信頼区間0.52〜0.93)。ただし、2年を超えて追いかけた研究ではよりはっきりする一方、2年以内では差がはっきりしませんでした。
寿命が延びるかどうかについては、まだ確かなことは言えません。効果があるように見える解析もありますが、より慎重に設計された比較(この仕組みのある病院とない病院を比べる方法)では、差がはっきりしませんでした。
また、これらの研究の多くは観察研究と呼ばれる方法によるもので、同じ病院の「導入前と導入後」を比べた研究が多く含まれています。この方法は、時代とともに医療全体が進歩した分まで仕組みの効果として数えてしまいやすい、という弱点があります。
ここまで細かく書いたのは、都合のよい結果だけをお伝えしないためです。この仕組みが検査と治療につながる確率を上げることは確かで、そこは信頼していただいてよいと思います。その先については、まだ研究が進んでいる途中です。
残念ながら、患者さんが手軽に調べられる一覧は、今のところ十分に整っていません。
ですので、調べるより、たずねるほうが確実です。
手術を受けた病院、あるいは今かかっている病院で、こう聞いてみてください。
病院の相談窓口(地域連携室・医療相談室)でもかまいません。「聞いてよいことなのかな」と迷われるかもしれませんが、こうした質問は、まさにこの仕組みが期待している声かけです。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| どういう仕組みか | 骨折を治す治療と、骨粗鬆症そのものの治療を、職種・病院・時間をまたいでつなぐ仕組みです |
| なぜ必要か | 太ももの付け根を骨折された方で、1年後も骨粗鬆症の治療につながっていない方が約半数いるためです |
| 誰が関わるか | 看護師を中心に、薬剤師・理学療法士・管理栄養士など。全国に約6,000人の認定者がいます |
| 保険の制度にも | 2022年から、太ももの付け根の骨折で手術を受けた方を対象に、健康保険の中で評価されています |
| 効果 | 検査・治療開始・治療継続が増えることは確かです。次の骨折の減少も示されています。寿命への効果はまだ確かではありません |
| 探し方 | 一覧で調べるのは難しいため、主治医や相談窓口にたずねるのが確実です |
[!warning] お願い 現在処方されているお薬を、自己判断で変えたりやめたりしないでください。気になることがあれば、必ず主治医にご相談ください。
Q. 私の病院では、そんな説明はありませんでした。取り組んでいないということでしょうか?
そうとは限りません。名前を出さずに同じことを実践している病院もたくさんあります。また、この仕組みが全国に広がってきたのはここ数年のことで、まだ整備の途中という病院もあります。気になるようでしたら、遠慮なくたずねてみてください。たずねること自体が、この仕組みが期待していることです。
Q. 背骨を骨折したのですが、対象になりますか?
健康保険の制度としては、現在のところ太ももの付け根の骨折で手術を受けた方が対象です。ただし、背骨の骨折の方に骨粗鬆症の治療が必要ないという意味ではありません。 背骨の骨折は次の骨折の大切なサインですので、骨粗鬆症の検査と治療について、ぜひ主治医にご相談ください。
Q. 骨粗鬆症マネージャーは、お医者さんのことですか?
いいえ。看護師・薬剤師・理学療法士・管理栄養士・診療放射線技師などの方が取得する認定で、医師は対象外です。診察のときには聞きそびれてしまうようなことを相談できる相手、と考えていただくとよいと思います。
Q. この仕組みがある病院に移ったほうがよいのでしょうか?
その必要はないことがほとんどです。見るべきは施設の名前ではなく、あなたの骨粗鬆症の治療が始まって、続いているかどうかです。今の主治医のもとでそれができていれば、それで十分です。
Q. 費用は余分にかかりますか?
この取り組みは健康保険の枠組みの中で行われるもので、通常の医療費に含まれます。金額のご心配がある場合は、高額療養費の制度なども含めて、治療費と保険の記事をご覧ください。
本記事の内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、特定の診断・治療を推奨するものではありません。骨折後の治療の続け方について気になることがあれば、主治医にご相談ください。
医療監修
加藤裕幸(整形外科医・日本整形外科学会専門医)
最終更新:2026年8月4日