正直なところ、この話は医療の側の反省から始まっています。
太ももの付け根(大腿骨近位部〈だいたいこつきんいぶ〉)を骨折された方について、その後どれだけの方が骨粗鬆症の治療を始められたかを、日本の大規模なデータで調べた研究があります。
2020年に骨折された6,705人(全国1,309施設、平均82.9歳)を追いかけた調査では、こうなっていました。
| 時期 |
骨粗鬆症の治療を受けている方の割合 |
| 骨折したとき |
23.0% |
| 6か月後 |
44.8% |
| 12か月後 |
47.3% |
骨折をきっかけに治療が始まった方はたしかに増えています。それでも1年たった時点で、まだ半分ほどの方が治療につながっていません。
もう少し前の時期を全国のレセプト(診療報酬明細)で見た研究では、大腿骨近位部骨折94万件あまりのうち、骨粗鬆症の薬による治療を受けていた方は2012年度の21.2%から2018年度の31.6%へ、という数字でした。少しずつ改善してきてはいるものの、長く低いところにとどまっていたことがわかります。
なぜ抜け落ちるのでしょうか
責める話ではありません。抜け落ちるだけの理由があります。
- 骨折の治療そのものが大変で、患者さんもご家族もそちらで精一杯になります
- 手術をした整形外科医の役割は、骨がつくところまでで一区切りになりがちです
- 退院してかかりつけの先生に戻ったとき、骨折があったことは伝わっても「だから骨粗鬆症の治療が要る」までは伝わりにくいことがあります
- 骨粗鬆症は痛みがないので、本人にとって急ぐ理由が実感しづらいのです
どこか一か所が悪いわけではなく、誰の担当でもない隙間に落ちている、という性質の問題です。だからこそ、個人の心がけではなく仕組みで埋めようという発想になりました。
日本では、保険の制度にもなりました
2022年から、太ももの付け根の骨折で手術を受けた方について、骨粗鬆症の評価と治療を続けていく取り組みが、健康保険の中で評価されるようになりました。手術をした病院、そのあとのリハビリ病院、退院後の外来と、段階をつないでいく形で作られています。
制度ができた前後を比べた研究では、退院時に骨粗鬆症の薬が処方される割合が、制度の開始と同時に約20ポイント上がったことが報告されています。それまでは年に1ポイント程度しか動いていなかったので、仕組みが変わると現場も変わる、ということがはっきり見えた形です。
[!note] 対象になる骨折について
この保険の仕組みは、現在のところ太ももの付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)で手術を受けた方が対象です。背骨や手首の骨折は含まれていません。
ただしこれは「保険の算定の対象かどうか」の話であって、背骨や手首を骨折された方に骨粗鬆症の治療が要らない、という意味ではまったくありません。 むしろ背骨の骨折は次の骨折の重要なサインです。制度の枠と、医学的な必要性は別のものとお考えください。