どこも痛くない。元気に過ごせている。それなのに「骨粗鬆症です」と言われる——その違和感を、まず受け止めるところから始めましょう。
このコラムについて
はじめまして。整形外科医の加藤裕幸です。
東海大学医学部と湘陽かしわ台病院で、骨や背骨の病気で悩む方の診療にあたっています。外来では、骨密度の検査結果をお見せしたあと、患者さんの表情がふっと止まる瞬間によく出会います。
そして、こう尋ねられます。
「先生、私、どこも痛くないんです。本当に病気なんですか?」
「痛くないのに、病気なの?」——外来で、本当によく聞かれる率直な疑問です。
とても自然な疑問だと思います。熱が出れば「風邪かな」とわかる。歯がしみれば「虫歯かも」とわかる。私たちは、体の不調を「痛み」や「つらさ」で知ることに慣れています。ところが骨粗鬆症は、その当たり前が通じない病気なのです。
この連載「骨と生きる」では、骨粗鬆症という病気と、これからどう付き合っていくかを、週に一度、少しずつお話ししていきます。第1回の今日は、多くの方が最初につまずく、この「痛くないのに、病気なの?」という戸惑いについて、一緒に考えてみたいと思います。
「症状がない」は、安心の材料ではありません
外来で、私がいちばんお伝えしたいのはここです。
骨粗鬆症は、痛みやつらさで気づく病気ではありません。それどころか、痛くないまま静かに進んでいくことこそが、この病気のいちばん怖いところなのです。
高血圧を思い浮かべてみてください。血圧が高くても、たいていは何も感じません。でも「症状がないから大丈夫」と放っておくと、ある日突然、心臓や血管の病気として表れてしまう。だから「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれます。
骨粗鬆症も、よく似ています。骨が少しずつもろくなっても、痛みは出ません。そして、ある日のちょっとした転倒やつまずきで、手首や背骨が折れて——そこで初めて「骨粗鬆症だったんですね」とわかる。残念ながら、これがとても多いのです。
「痛くない」は「問題がない」ではありません。「まだ、骨が悲鳴をあげる前の段階」なのです。
ですから、いま痛みがないことは、むしろ幸運なことだと私は思います。まだ何も起きていないうちに気づけた——これ以上に良いタイミングはありません。
なぜ「病気」と呼ぶのでしょう
「数値が少し低いだけで、病気だなんて大げさでは?」
そう感じる方もいらっしゃいます。お気持ちはわかります。でも、医師が骨粗鬆症を「病気」として扱うのには、きちんとした理由があります。
それは、骨折のリスクが、ふつうの人より明らかに高くなっている状態だからです。骨の中で実際に何が起きているのか——骨がどのようにもろくなっていくのかは、別の記事でくわしくお話ししています。
ここで知っておいていただきたいのは、骨粗鬆症の「病気」という言葉が、「もう手遅れ」という意味ではない、ということです。むしろ逆です。まだ折れていない今だからこそ、できることがたくさんある。だから名前をつけて、向き合う対象として扱うのです。
「病気」と言われると、つい身構えてしまいます。でも、ここでの「病気」は、〈これから守っていく対象が見つかった〉という合図だと受け取っていただけたらと思います。
「自分を責める」必要は、まったくありません
検査結果を前に、こうおっしゃる方もいます。
「運動不足だったから」 「若いころ、無理なダイエットをしたせいかも」 「牛乳が苦手で、あまり飲んでこなかったから」
たしかに生活習慣が関わる部分もあります。けれど、骨粗鬆症のいちばん大きな原因は、年齢を重ねることと、女性ホルモンの変化です。これは、生きていれば誰にでも訪れる、ごく自然な体の移り変わりです。
長い年月、あなたの体を支え続けてきた骨に起きる変化です。誰のせいでもありませんし、ましてや、あなたが何かを「怠けた」結果でもありません。
自分を責めるエネルギーは、これから骨を守ることに使いましょう。そのほうが、ずっと前向きです。
では、今日からどうすればいいの?
「病気だとわかった。でも痛くない。じゃあ、何をすれば?」——ここが、いちばん大事なところです。
今日のこの回では、難しいことは一つも申し上げません。お願いしたいのは、たった一つ。
「痛くないから大丈夫」と、ふたをしないでください。
それだけで十分です。検査の数値の意味、食事や運動でできること、お薬という選択肢——そういった具体的な話は、この連載でこれから一つずつ、あわてず順番にお伝えしていきます。今日はまだ、何も決めなくて大丈夫です。
もし「自分の骨は今どうなっているんだろう」と少しでも気になったら、それがもう、立派な第一歩です。次に病院にかかるとき、「骨密度の検査は受けたほうがいいですか?」と一言、聞いてみてください。
この連載「骨と生きる」について
この連載は、全24回を予定しています。骨粗鬆症と長く付き合っていくために、6つのステップで、少しずつ一緒に歩んでいきます。
| ステップ | テーマ | 内容 |
|---|---|---|
| 知る | 静かな病気の正体 | 痛みがないのに進む理由、骨という生きた組織のこと |
| 調べる | 私は大丈夫? | リスクの見つけ方、骨密度検査、数値の読み方 |
| 防ぐ | 今日からできること | 食事、ビタミンD、運動、転ばない暮らし |
| 治す | お薬と向き合う | 薬の選び方、自己注射の不安、続けるということ |
| 折れても | その先を支える | 骨折からの回復、心のケア、治療費のこと |
| これからも | 骨とともに歩む | 家族のため、そして自分のために |
毎週1回、5〜7分で読める長さでお届けします。
痛くない今だからこそ、知ることに意味があります。あわてず、一緒に学んでいきましょう。あなたは、決して一人ではありません。
この連載は一般的な情報提供を目的としたものです。診断や治療については、必ず主治医にご相談ください。
監修:加藤裕幸(整形外科専門医/東海大学医学部 医学教育学 教授)