コラム 第1回:痛くないのに、病気なの?|骨活ガイド
Phase 1: 知る — 第1
連載の進み具合1 / 24
加藤

整形外科専門医・加藤裕幸

4分で読めます

「痛くないのに、病気なの?」— その戸惑いは、自然なものです

どこも痛くない。元気に過ごせている。それなのに「骨粗鬆症です」と言われる——その違和感を、まず受け止めるところから始めましょう。


このコラムについて

はじめまして。整形外科医の加藤裕幸です。

東海大学医学部と湘陽かしわ台病院で、骨や背骨の病気で悩む方の診療にあたっています。外来では、骨密度の検査結果をお見せしたあと、患者さんの表情がふっと止まる瞬間によく出会います。

そして、こう尋ねられます。

「先生、私、どこも痛くないんです。本当に病気なんですか?」

骨密度の検査結果を前に「痛くないのに、病気なの?」と戸惑う女性と、やさしく説明する医師 「痛くないのに、病気なの?」——外来で、本当によく聞かれる率直な疑問です。

とても自然な疑問だと思います。熱が出れば「風邪かな」とわかる。歯がしみれば「虫歯かも」とわかる。私たちは、体の不調を「痛み」や「つらさ」で知ることに慣れています。ところが骨粗鬆症は、その当たり前が通じない病気なのです。

この連載「骨と生きる」では、骨粗鬆症という病気と、これからどう付き合っていくかを、週に一度、少しずつお話ししていきます。第1回の今日は、多くの方が最初につまずく、この「痛くないのに、病気なの?」という戸惑いについて、一緒に考えてみたいと思います。


「症状がない」は、安心の材料ではありません

外来で、私がいちばんお伝えしたいのはここです。

骨粗鬆症は、痛みやつらさで気づく病気ではありません。それどころか、痛くないまま静かに進んでいくことこそが、この病気のいちばん怖いところなのです。

高血圧を思い浮かべてみてください。血圧が高くても、たいていは何も感じません。でも「症状がないから大丈夫」と放っておくと、ある日突然、心臓や血管の病気として表れてしまう。だから「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれます。

骨粗鬆症も、よく似ています。骨が少しずつもろくなっても、痛みは出ません。そして、ある日のちょっとした転倒やつまずきで、手首や背骨が折れて——そこで初めて「骨粗鬆症だったんですね」とわかる。残念ながら、これがとても多いのです。

「痛くない」は「問題がない」ではありません。「まだ、骨が悲鳴をあげる前の段階」なのです。

ですから、いま痛みがないことは、むしろ幸運なことだと私は思います。まだ何も起きていないうちに気づけた——これ以上に良いタイミングはありません。


なぜ「病気」と呼ぶのでしょう

「数値が少し低いだけで、病気だなんて大げさでは?」

そう感じる方もいらっしゃいます。お気持ちはわかります。でも、医師が骨粗鬆症を「病気」として扱うのには、きちんとした理由があります。

それは、骨折のリスクが、ふつうの人より明らかに高くなっている状態だからです。骨の中で実際に何が起きているのか——骨がどのようにもろくなっていくのかは、別の記事でくわしくお話ししています。

📖 骨粗鬆症とは — 「静かな病気」を知る

ここで知っておいていただきたいのは、骨粗鬆症の「病気」という言葉が、「もう手遅れ」という意味ではない、ということです。むしろ逆です。まだ折れていない今だからこそ、できることがたくさんある。だから名前をつけて、向き合う対象として扱うのです。

「病気」と言われると、つい身構えてしまいます。でも、ここでの「病気」は、〈これから守っていく対象が見つかった〉という合図だと受け取っていただけたらと思います。


「自分を責める」必要は、まったくありません

検査結果を前に、こうおっしゃる方もいます。

「運動不足だったから」 「若いころ、無理なダイエットをしたせいかも」 「牛乳が苦手で、あまり飲んでこなかったから」

たしかに生活習慣が関わる部分もあります。けれど、骨粗鬆症のいちばん大きな原因は、年齢を重ねることと、女性ホルモンの変化です。これは、生きていれば誰にでも訪れる、ごく自然な体の移り変わりです。

長い年月、あなたの体を支え続けてきた骨に起きる変化です。誰のせいでもありませんし、ましてや、あなたが何かを「怠けた」結果でもありません。

自分を責めるエネルギーは、これから骨を守ることに使いましょう。そのほうが、ずっと前向きです。


では、今日からどうすればいいの?

「病気だとわかった。でも痛くない。じゃあ、何をすれば?」——ここが、いちばん大事なところです。

今日のこの回では、難しいことは一つも申し上げません。お願いしたいのは、たった一つ。

「痛くないから大丈夫」と、ふたをしないでください。

それだけで十分です。検査の数値の意味、食事や運動でできること、お薬という選択肢——そういった具体的な話は、この連載でこれから一つずつ、あわてず順番にお伝えしていきます。今日はまだ、何も決めなくて大丈夫です。

もし「自分の骨は今どうなっているんだろう」と少しでも気になったら、それがもう、立派な第一歩です。次に病院にかかるとき、「骨密度の検査は受けたほうがいいですか?」と一言、聞いてみてください。


この連載「骨と生きる」について

この連載は、全24回を予定しています。骨粗鬆症と長く付き合っていくために、6つのステップで、少しずつ一緒に歩んでいきます。

ステップテーマ内容
知る静かな病気の正体痛みがないのに進む理由、骨という生きた組織のこと
調べる私は大丈夫?リスクの見つけ方、骨密度検査、数値の読み方
防ぐ今日からできること食事、ビタミンD、運動、転ばない暮らし
治すお薬と向き合う薬の選び方、自己注射の不安、続けるということ
折れてもその先を支える骨折からの回復、心のケア、治療費のこと
これからも骨とともに歩む家族のため、そして自分のために

毎週1回、5〜7分で読める長さでお届けします。

痛くない今だからこそ、知ることに意味があります。あわてず、一緒に学んでいきましょう。あなたは、決して一人ではありません。


この連載は一般的な情報提供を目的としたものです。診断や治療については、必ず主治医にご相談ください。

監修:加藤裕幸(整形外科専門医/東海大学医学部 医学教育学 教授)

静かな病気基礎知識
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2026年6月28日公開予定